男性向けコンテンツの新星!!「ウマ娘」のヒット理由を完全解明!
多くの話題を集めているスマートフォンゲーム『ウマ娘プリティーダービー(以下「ウマ娘」)』。2月24日に公開されて以降、4ヶ月弱で800万ダウンロードを超える大ヒットとなりました。
特にセールス面の売上が著しく、4月の売上は世界3位となるなど、様々な記録を達成しています。「ウマ娘」とは一体何なのか、ヒットの理由について分析します!
ウマ娘とは一体何なのか
本記事の前文ですが、知らない人にはなんのこっちゃというお話です。
呪文のような単語も続きますが少しの間お付き合いください。
いつの時代でもオタクコンテンツの流行りというのは早いもので、男性向けも女性向けも次々に変化していきます。男性向けコンテンツのブームで言ったら「異世界転生モノ」は今現在の流行りです。
更に、ほんの少し前は男性向けコアコンテンツの象徴といえばアイドルでした。「アイドルマスター」「ラブライブ」(「アイカツ」や「プリパラ」は少しメインターゲットが違うかもしれませんが…)
さらにその前は擬人化や、もっと前は猫耳やメイドです。メイドや猫耳はあまりにも流行りすぎて、もはやオタクのアイコン化し、少女漫画にすらメイド喫茶アルバイトがバレるところから始まる恋…なんてのもありました。さらには魔法少女やメカやスペースアドベンチャー、異世界ファンタジーやセカイ系などなど…語りだすとキリがないので一旦やめますが、そんな流れの速いコンテンツ界隈で今、最も話題になっている作品があります。
それが、「ウマ娘プリティダービー」です。
一見すると、単なる“ウマ耳”と尻尾を持つ美少女コンテンツのように思えますが、実在した競走馬の名前と魂を受け継いだ「ウマ娘」たちが、「日本ダービー」「安田記念」など実名のレースに出走し、勝利を目指すという、競馬の要素を色濃く取り入れた作品です。
様々なメディアで展開されており、漫画、アニメ、アプリなどがありますが、これらがすべて絶好調。
スピンオフ漫画版は発行部数100万部を越え、アニメ版はディスク売り上げ歴代単独1位、特筆すべきは2月末に配信されたアプリ版で、配信1か月で500万ダウンロード(現在は800万超え)2021年第1四半期時点で全世界のアプリで課金額1位に。配信元であるサイバーエージェントのゲーム事業の売り上げは前年比倍以上となるほどの効果をもたらしました。
しかしご存じの方もいるかもしれませんが、実はこの作品が最初にメディア化されたのは2018年のアニメ版第1期。アプリはじつに2度の配信延期を経て2021年2月に晴れて配信となりました。
なぜここまでタイムラグがあったコンテンツが大ヒットコンテンツとなりえたのでしょうか。
今回の記事はその理由をコンテンツの要素から分析していきたいと思います。
アイドル育成+史実+スポ根=ウマ娘
これまた一体なんのこっちゃという等式ですが、これがウマ娘がヒットコンテンツとなりえた理由です。
一つ一つ分解してみていきましょう。
まず一つ目は前述のアイドル要素です。ウマ娘たちは各レースが終わるとウイニングランならぬ、ウイニングライブと呼ばれるライブを行う設定になっており、レースの1位がセンターで、2位3位はその脇で歌い、踊ることができます。
これはつまり、裏を返せばセンターを取るためには勝たなければいけない、レースに勝てるよう強くしなければいけないということです。
ゲームスタート直後のキャラクターたちは能力が低く、それをトレーニングで強くしていきますが、中にはトレーニングだけではどうにもならない要素もあります。生まれつき長距離を走るのが苦手なウマ娘や芝コースが苦手なウマ娘など、ただ「推しを好き」なだけでは超えられない壁を育成や継承と呼ばれる遺伝要素で強くしていきトップを目指すゲームなのです。
アイドルのファンに限らずですが、「推しを応援する」「推しをもっといい舞台に立たせる」という文化がオタクの中に存在します。この、ユーザーとともに育ち強くなるクオリティの高い育成要素はそういったいわゆるオタク心を見事にくすぐり、競馬に興味がなかった層を取り込みました。
丁寧な史実要素に競馬ファンも喜んだ
二つ目は史実要素です。上述したように、ウマ娘たちは実際の競走馬の名前と魂を受け継いだ存在です。つまりキャラクターたちは人名ではなく「トウカイテイオー」や「オグリキャップ」など往年の名馬たちの名前がそのまま付けられているのです。そして、その往年の名馬たちですら成しえなかった記録に立ち向かったり、史実をなぞったりできるというのがこの作品の醍醐味でもあります。
こうした実際の競馬の歴史をなぞるような史実要素は競馬ファンにウケました。
思えば人は適度な「史実」と「史実改変のif」のロマンがとてつもなく好きなのです。誰しも思ったことあるのではないでしょうか「もし織田信長が天下統一していたら」「もし好きなスポーツチームにあの選手がいたら」…そして、実際にゲームでそれをかなえたりする。
更に競馬ファンだけでなく(これはまた別の要素かもしれませんが、)オタクは史実を語れるというのも好きなのです。ブームとなった「艦隊これくしょん」や「刀剣乱舞」などの実際に存在した武器や兵器を擬人化した作品や、「Fateシリーズ」のようにヨーロッパや日本の伝記や偉人をテーマにした作品など、語れる歴史があるものにファンは付きやすい傾向があることが分かります。なにせとにかくオタクは蘊蓄を語りたいのです。(この記事もそうです!)
こうした語れる歴史(事実)があるという要素は配信初日からTwitterを中心としたSNSで話題になり、さらに拡散するといった効果を生みました。
また、「ウマ娘」にも登場する名馬「ナイスネイチャ」の誕生日に合わせて、レースを引退した競走馬を支援するNPO法人「引退馬協会」がクラウドファンディングで寄付金を募ったところ、目標額の200万円に対して18倍近くにもなる約3583万円が集まるなど、大きな成果として表れています。
誰もが好きなスポコンアニメとしての側面
そして3つ目はスポ根要素です。これはアニメ版が特に顕著でした。
アプリリリース時に放送中だったアニメ2期の主人公は、実際の競馬でもライバル関係にあった「トウカイテイオー」と「メジロマックイーン」
この二人のライバル関係をメインに描き、実際のレースの結果やケガを乗り越えていくストーリーなど、史実の競走馬の活躍や関係性まで細かく反映したことで、アニメからも制作陣の本気度が競馬ファンに伝わりました。
スポーツ漫画や少年漫画にはお決まりといっていい存在の「高めあうライバル」の存在。例えば「翼と小次郎」や「悟空とベジータ」「アムロとシャア」などのライバル関係による王道の燃える展開。
このライバル関係や努力、そして挫折からのレースでの勝利といった少年マンガ的展開が、単なる美少女アイドルモノではなく「スポ根モノ」としての人気を呼び、アニメのレビューサービス「Filmarks」が発表した、「2021年冬アニメ 満足度ランキング」で1位を獲得。普段アイドルモノのアニメを見ない層まで取り込んだ結果がうかがえます。
実際先日発売されたディスク版売り上げ総数は16万枚を超え、アニメディスク売り上げ歴代単独1位を記録しました。
- アイドル作品として推しを育てて応援するという文化にマッチしたこと
- オタクが語りたくなる史実が「競馬」というベースとなったコンテンツに有ったこと
- そしてその二つの層のファンをどちらも取り込み、さらにアプリ版でどちらでもないゲームファンや話題になっているものが好きなミーハー層まで取り込めたこと
この3つの要素があったからこそウマ娘はヒットしたのだと私は推測します。
今回はウマ娘がヒットした要素に絞ってご説明いたしました。
勿論この要素だけでは測れないものはあるかと思います。ただ、コンテンツの流行る要素を紐解くと、知らないコンテンツでもなんとなく「これは流行る気がする」という要素が徐々にわかってくるのではないでしょうか。
例えば最近流行りの「ふしぎ駄菓子屋銭天堂」はゲゲゲの鬼太郎や妖怪ウォッチなどの「子供向けホラー要素」や「秘密道具」など過去に流行ったコンテンツの要素を多分に含んでいます。これから流行る「要素自体」を見つけることは難しいですが、過去に流行った作品の「要素」に近いものは探すことができます。これから来るかもしれないというヒットコンテンツをお探しの時は、ぜひ作品の持つ「要素」にも注目してみてください。
文責:中里